お天気用語辞典
大気の熱力学
こちらには、大気の熱力学に関する用語をまとめました。
おことわり
このページは、2010年11月25日以降、記事内容の更新がされておりません。
現在の情報とは異なる部分が存在する可能性がありますので、大変申し訳御座いませんが、その旨ご理解の上でご覧頂ければ幸いです。
ア行 | エマグラム | 温位 | - | - |
---|---|---|---|---|
カ行 | 海面補正 | 乾燥断熱減率 | 気温減率 | 逆転層 |
顕熱 | 混合比 | - | - | |
サ行 | 湿球温度 | 湿潤断熱減率 | 湿度 | 自由対流高度 |
静水圧平衡 | 静的安定性 | 潜熱 | 相当温位 | |
タ・ナ・ハ行 | 第2種条件付不安定 | 対流不安定 | 熱力学の第一法則 | フェーン現象 |
飽和水蒸気圧・密度 | - | - | - | |
マ・ヤ・ラ・ワ行 | 持ち上げ凝結高度 | 理想気体の状態方程式 | 露点温度 | - |
同義語 | 静力学平衡 → 静水圧平衡 | 静力学的安定性 → 静的安定性 | ||
CISK → 第2種条件付不安定 | - |
エマグラム
エマグラムとは、ある地点の上空を熱力学的に見た状態図のことです。
主にある地点の鉛直方向の大気安定度をみる為に用いられます。
エマグラムの詳細については、気象予報士試験の傾向と対策 実技試験のススメをご覧下さい。
温位
空気塊を断熱的に標準気圧(1,000hPa)のところまで下降(或いは上昇)させた時、空気塊がもつ温度のこと。
高度が高くなるにつれて、気圧は下がり、温度ももちろん下がります。
違う高度の空気塊を比べる際に、どちらの温度が高いかを見るのに便利な指標となります。
普通は気温が低いほどその空気は重いので、下層にある方が大気は安定しますが、
一般的に対流圏は上空に行くほど気温が低くなっています。
でも、温位で見ると上空に行くほど高くなっており、これは静的安定性に大きな意味を持ちます。
また、この温位に水蒸気のエネルギーを考慮した値で相当温位があります。
海面補正
海面上にない測候所で測った気圧に補正を加えて、海面上の気圧の値に引き直すこと。
全国にはたくさんの測候所があり、中には高地にあるものもあります。
海面の気圧が1000hPaであっても、高さが400mも上に行けば、気圧は約950hPaに減ってしまい、
このまま等圧線を引けば、等高線と同じ様になってしまう為、海面上(海抜0m)の気圧で統一しています。
海面補正は、静水圧平衡と理想気体の状態方程式を使って計算することが出来ます。
乾燥断熱減率
乾燥した空気塊が断熱的に(外部からの熱の影響を受けずに)上昇した場合、膨張して温度が低下する割合のこと。
乾燥したと言うよりは、飽和していない空気であることが条件で、1km上昇する毎に約10℃気温が下がります。
上昇途中に空気塊が飽和したら、それ以降は湿潤断熱減率で気温が下がっていきます。
気温減率
対流圏において、高度が1,000m(1km)上昇する毎に、温度が約6℃ずつ下がっていくこと。
ただ、これはあくまで平均的な値であって、大気は絶えず運動している為、
空気のもつ湿気等によって、多少のブレは生じます。
逆転層
一般的に対流圏は上空に行くほど気温が低くなっています。 ところが、時には逆に気温が高度とともに高くなる層が出現し、この層を逆転層と言います。 成因によって、次の3つに分類されます。
接地逆転層 | 夜間の放射冷却によってできる。霧も発生しやすい。 冷たい海面に暖かい空気が流れ込むことでもできる。 |
---|---|
沈降逆転層 | 下降流により空気が沈降し、断熱圧縮の昇温によって地表面から離れた高度にできる。 |
移流逆転層 | 温暖前線面や寒冷前線面にできる。 |
顕熱
物質に熱を加えた時に、温度変化に使われる熱のこと。
物質は必ずエネルギー(熱)を持っていて、それをエンタルピー(全熱)と言います。
エンタルピーは、物質が直接的に持つ顕熱と相変化で放出される潜熱の合計で表されます。
混合比
単位体積中の乾燥空気密度に対する水蒸気密度の比のこと。
w = (単位体積中の水蒸気密度)/(単位体積中の乾燥空気密度)
w = 0.622*e/p
* w:混合比、e:飽和水蒸気圧、p:気圧
エマグラムにおいても、重要な指標の1つなので、必ず覚えておきましょう。
湿球温度
学校等の百葉箱に設置されている測器の1つに乾湿温度計があります。
これは、2つの温度計のセットになっており、その内の1つが乾球温度計(ふつうの水銀温度計)で、
もう1つが水銀溜の部分を湿ったガーゼで包んである湿球温度計です。
湿ったガーゼから水が蒸発する時に気化熱が奪われることで、
湿球温度計の温度は乾球温度計の温度より低くなります。
この湿球温度計の温度が湿球温度です。
空気が乾燥しているほど水の蒸発が盛んになる為、乾球温度と湿球温度の差が大きくなります。
この温度差から、相対湿度を知ることができます。
湿潤断熱減率
飽和した空気塊が断熱的に(外部からの熱の影響を受けずに)上昇した場合、膨張して温度が低下する割合のこと。
一方、飽和していない空気塊は、乾燥断熱減率で気温が下がっていきます。
湿潤断熱減率では、1km上昇する毎に約5℃気温が下がります。
乾燥断熱減率よりも温度が下がりにくいのは、温度の低下によって水蒸気の凝結が起こり、
それによって潜熱が放出されるからです。
湿度
表し方としては、相対湿度と絶対湿度があります。
相対湿度は、単位容積中の水蒸気量とその時点の温度での飽和水蒸気密度の比で、単位はパーセント(%)で表します。
飽和水蒸気密度は、単位容積中に含むことができる最大の水蒸気量です。
絶対湿度は、単位容積中の水蒸気量と単位容積(空気の容積)の比で、単位は(g/cm3)で表します。
要するに、相対湿度は、最大水蒸気量を100%としてどれだけの割合の水蒸気量があるのかを表し、
絶対湿度は、とにかくどれだけの水蒸気量があるのかを表します。
自由対流高度
ある地点の持ち上げ凝結高度にある
飽和した空気塊を更に断熱的に上昇させた場合、その空気塊は湿潤断熱減率で温度が下がっていきます。
やがて、ある高度で空気塊の温度は周囲の気温と等しくなります。
この時の高度が自由対流高度で、それより上では温度は湿潤断熱減率で下がっていくし、
周囲の大気の気温減率はそれより大きいので、空気塊の温度はいつも周囲の気温より高く、
従って空気塊は浮力によって自力で上昇できるようになります。
この高度は、エマグラムを使って導出することができます。
詳細については、気象予報士試験の傾向と対策 実技試験のススメをご覧下さい。
静水圧平衡(静力学平衡)
重力による下向きの力が鉛直方向の圧力傾度に釣り合っている状態のこと。
地球の引力によって大気は地球に引き付けられているので、
地表に近づくほど大気は圧縮され、密度や気圧が高くなっています。
上からは大気が重力によって降りてきますが、下からは圧縮された大気の反発力がある為、
結果的に上下の力が釣り合い、安定して存在しています。
大気中に単位面積×高さ z の単位直方体があるとすると、
Δp = -gρΔz
* Δp:単位直方体の上端と下端の気圧差、g:重力、ρ:単位直方体中の空気密度、Δz:単位直方体の高度差
これを静水圧平衡の式と言い、 ある高度における気圧は、それより上にある大気の重さに等しいということを表しています。 気象学の基本の式なので必ず覚えておきましょう。
静的安定性(静力学的安定性)
上下運動の起きやすさは、大気の密度の鉛直方向の分布に関係しているということ。
気温が高さによらず一定の場合は中立の成層、
放射冷却等で地表面付近の気温が下がると、下の方の空気が重くなって安定な成層、
日光で地表面付近の気温が上がると、下の方の空気が軽くなって不安定な成層となります。
ある空気塊が断熱的に上昇した場合の静的安定性は、周りの大気の気温減率との比較で決まります。
乾燥大気においては、飽和していない空気塊が断熱的に上昇した場合の気温減率は乾燥断熱減率ですが、
周りの大気の気温減率の方が小さいならば安定、大きいならば不安定となります。
湿潤大気においては、飽和している空気塊が断熱的に上昇した場合の気温減率は湿潤断熱減率ですが、
周りの大気の気温減率の方が小さいならば絶対安定、乾燥断熱減率よりも大きいならば絶対不安定、
乾燥断熱減率よりも小さいが湿潤断熱減率よりも大きい場合は、
条件付不安定(空気塊が飽和なら不安定、不飽和なら安定)となります。
潜熱
水蒸気が凝結する時に放出する熱のこと。広義的には、相変化に伴う熱のこと。
物質そのものが持つ顕熱とは別の、相変化のとき以外は現れない、正に『潜む熱』です。
水蒸気を含む空気塊は、上昇すると冷やされ、やがて水蒸気が凝結し、水滴が出来ます。
この時に潜熱が放出され、周りの空気より暖かくなる為、さらに空気塊は上昇します。
こうして、大気の不安定度が増していき、
温帯低気圧や台風の発達に繋がります。
相当温位
温位に水蒸気のエネルギー(潜熱)を考慮した値のこと。
相当温位は、温位と違って、空気塊の中で水の凝結(雲の生成や降水)が起きても、
既に潜熱を考慮している為、値が変わることはありません。
従って、大気の状態が不安定かどうかを判断する際によく用いられます。
相当温位が高い空気塊は、より潜熱が多い分、
相当温位が低い空気塊より軽く上昇しやすくなり、大気は不安定となります。
第2種条件付不安定(CISK)
規模の異なる2つの大気擾乱が互いに影響し合って、ともに不安定が強まること。
条件付不安定な大気中で、水平スケールが1〜10kmの降水セルが発達し、
その集積効果として、水平スケールが100kmである台風が発達する現象が、最も典型的な例です。
対流不安定
飽和していない時には安定だったある大気層全体が、飽和するまで上昇した時不安定になるならば、
その層は対流不安定な層であると言います。
そうなる為の条件は、相当温位が高度とともに減少している層であることです。
対流不安定であることは、対流雲(積乱雲等)が発達するという意味を含んでいます。
熱力学の第一法則
ある物体に外部から熱を加えると、その分の熱がある量の仕事をし、 また内部に蓄積されるエネルギーが増えることを示した、熱力学の基本法則の1つ。
ΔQ = ΔW + Δu
* Q:熱量、W:仕事量、u:内部エネルギー
気象学で言うならば、空気塊に外部から熱を加えると、容積が増えて気圧が上がり(仕事)、 更に空気塊の温度も上がる(内部エネルギー)、ということになります。
フェーン現象
湿った空気が山岳等に当たり、空気が山を越えると乾燥した熱風に変化する現象のこと。
湿った空気が山を越える際、気温の低下によって水蒸気が凝結して雲が発生、雨を降らせます。
山を越えて吹き降りる時には、雨が降ったことで空気は水分を失い、乾燥することになる訳です。
元の空気より温度が上がるのは、乾燥断熱減率と湿潤断熱減率の違いによるものです。
湿った空気が山を越える際、水蒸気の凝結による潜熱の為、気温は1kmにつき約5℃ずつ下がりますが、
乾燥空気が山を降りる際は、1kmにつき約10℃ずつ上がる為、結果的に風下の方が高温になる訳です。
日本の公式での観測史上最高気温は、1933年7月25日に山形市で記録された40.8℃で、
これはこのフェーン現象によるものです。
飽和水蒸気圧・密度
液相の水(水)と気相の水(水蒸気)が平衡状態に達したことを、空気が水蒸気で飽和したといい、
この時の水蒸気の密度を飽和水蒸気密度、水蒸気が及ぼす圧力(水蒸気の分圧)を飽和水蒸気圧といいます。
ある容器の中に、完全に乾燥した空気と水があるとすると、次第に水面から蒸発が起こり、
空気中の水蒸気分子の数が増えてゆきます。それとともに、水面に衝突する分子も増加し、
やがて、水面から出て行く分子数と入って来る分子数が同じになります。この平衡状態を飽和と言います。
両方の値とも、温度が低いほど、数値が下がっていきます。
これは、温度が低いほど、その空気がもてる水蒸気の量が少なくなることを示しており、
よって、空気が上昇し気温が下がると、水蒸気が凝結、雲が発生することになります。
持ち上げ凝結高度
ある地点のある高度にある空気塊を断熱的に上昇させた場合、
その空気塊は、水蒸気を保持したまま、乾燥断熱減率で温度が下がっていきます。
そして露点温度に達すると、空気塊の水蒸気は凝結し、雲が発生します。
この時の高度が持ち上げ凝結高度であり、ほぼ雲底高度に相当します。
この高度は、エマグラムを使って導出することができます。
詳細については、気象予報士試験の傾向と対策 実技試験のススメをご覧下さい。
理想気体の状態方程式
気体の圧力、温度、密度(体積と質量)の関係には一定の法則があり、これを表した方程式のこと。
pV = mRT
p = (m/V)RT = ρRT
* p:圧力、V:体積、m:質量、R:気体定数、T:温度、ρ:密度
このことから、気体の圧力は温度に比例し、同時に密度にも比例すると言えます。
即ち、通常、気体と気温は比例すると考えることが出来ます。
この方程式は、物理化学の基本のキです。気象学においても必要なので覚えておきましょう。
露点温度
水蒸気を含む空気を冷却することで、水蒸気が凝結して露ができる時の温度。
単に露点とも言います。
露ができた空気は、相対湿度100%であるので、
冷却前の温度と比べることで、冷却前の空気の相対湿度が分かります。