気象予報士試験の傾向と対策
実技試験のススメ
ようこそいらっしゃいました!
こちらでは、実際の実技試験の形式でまとめました。
気象予報士試験の勉強にお役立て下さい。
おことわり
このページは、2013年7月2日以降、記事内容の更新がされておりません。
現在の情報とは異なる部分が存在する可能性がありますので、大変申し訳御座いませんが、その旨ご理解の上でご覧頂ければ幸いです。
おことわり
このページでは、閲覧以外のいかなる目的の使用も禁止とさせて頂きます。
尚、このページに掲載されている例題、添付図表は、実際に気象予報士試験で出題されたものを参考にして作成しております。
試験の心得 (残り時間:--分)
実技試験は、文章や図表で解答する記述式です。
試験は第1部(13:10〜14:25)と第2部(14:45〜16:00)に分かれていて、それぞれ75分間となっています。
と言っても、2つの題材についての問題が出題されるだけで、特に何かが変わる訳ではありません。
学科よりも15分長いですが、それでも時間が足らなくなることが多いです。
かなり難易度は高いと言っていいでしょう。
さて、学科試験が終わると、受験者には65分のインターバルが与えられます。
あなたはこの時間をどのように使いますか?
実技試験の直前チェックをしたり、昼食を食べたり、ちょっと一服したり、試験会場を散策したり、 勿論あなたの自由ですが、私は昼食を食べることをオススメします。
午後からの実技試験は、3時間にわたる長丁場となっています。
腹が空いては戦はできぬ、と言う訳です。
但し、あまり食べ過ぎると試験中に眠くなってしまうので、腹7分目位にしておきましょう。
昼食を食べた後は、息抜きをするなり、直前チェックををするなりするといいでしょう。
とにかく、実技試験に向けて、万全の態勢で臨みましょう。
始める前に (残り時間:--分)
試験の前に、まず必要な物を机の上に揃えましょう。
学科試験は、受験票、筆記用具、時計だけでよかったのですが、実技試験は違います。
試験要項に書いてある持ち込み可能な道具を見てみると、
受験票、HBの鉛筆(又はシャープペンシル)、プラスチック製消しゴム、色鉛筆、マーカーペン、定規、
デバイダー(分度器、又はコンパス)、ルーペ、ペーパークリップ、時計(計算機機能の付いていないもの)とあります。
この内、色鉛筆、マーカーペン、定規、デバイダーは、実技試験で使う可能性があります。
色鉛筆、マーカーペンは、図表の処理に使います。
定規、デバイダーは、図表の解析に使います。
必要になるかならないか、あなたが使うかどうかは別として、持ち込んでおいて損はないでしょう。
さて、問題用紙が配られたら、まず注意事項に目を通しましょう。
分かりきった内容ですが、試験開始までインターバルがあるので、気分を落ち着かせるのに使いましょう。
勿論、解答用紙に受験番号と氏名を書くのを忘れずに。
間違えると無効になっちゃうので、何度も確かめましょう。
全て準備が整えば、後は試験開始の合図を待つのみです。
図表の処理 (残り時間:75分)
さあ、試験官の合図で実技試験が始まりました。
実技試験では、多くの資料(図表)が配布されます。
と言っても、これら図表は、問題用紙に付いているので、まずこれを切り離しましょう。
ミシン目が付いているので、折り目を付けてから、数枚まとめて切り離していきましょう。
試験開始と同時に、皆一斉に切り離し始めるので、会場内にこの音が響き渡り圧巻です。
初めての方は、ちょっとびっくりするかもしれませんが、気にしないように。
もしペーパークリップを持っていたら、まとめるのに使ってもいいでしょう。
さて、全ての図表を切り離したら、図表の処理を始めましょう。
ここで配られる天気図はモノクロなので、そのままだと非常に分かりにくいです。
そこで、前項で説明した色鉛筆、マーカーペンを使って、天気図に色塗りをします。
どちらでもいいのですが、できれば濃淡のつけられる色鉛筆の方がいいでしょう。
まず、赤、青、緑(黄緑)の色鉛筆を用意します。
色塗りをするにあたって、赤は低気圧性領域、温暖前線等、青は高気圧性領域、寒冷前線等、
緑は0線、ジェット軸、強風軸等、という様にルールを決めておきます。
ここで、各天気図ついて、色塗りのポイントを示します。
地上天気図
気圧配置の概要の把握に用います。
まず、日本付近に影響しそうな低気圧を赤で、高気圧を青でチェックします。
更に、海上濃霧警報 FOG [W]発令圏(波線)を緑で薄く塗ります。
この図に関しては、そんなに色塗りする必要性はないでしょう。
地上気圧・降水量・風予想図
高・低気圧の盛衰、移動、降水量、風の確認に用います。
まず、日本付近に影響しそうな低気圧を赤で、高気圧を青でチェックします。
更に、降水予想領域(点線内)を青で薄く塗ります。
そして、風の矢羽から、風の流線を緑で描ましょう。
又、この図には前線が描かれていませんので、他の図を利用して前線の位置を解析し、
温暖前線を赤線、寒冷前線を青線で記入しましょう。
詳しい前線の解析法はこちら。
850hPa 風・相当温位予想図
主に前線の解析に用います。
前線の解析には、いくつかの図が必要ですが、まずこの図でその目安を付けます。
等相当温位線が混んでいる所からその南端付近が前線にあたります。
これより、おおよその前線の位置を解析し、温暖前線を赤線、寒冷前線を青線で記入しましょう。
詳しい前線の解析法はこちら。
更に、夏季340K以上の高相当温位域を赤で薄く塗ります。
850hPa 気温・風, 700hPa 上昇流解析図
特に上昇流に注目しましょう。
まず、鉛直上昇流域を赤で、
鉛直下降流域を青で薄く塗ります。(数値が小さいのは無視)
これより、上昇流域と暖気移流域と正渦度域、下降流域と寒気移流域と負渦度域がどう対応しているかを確認します。
更に、雪の恐れがある-6℃以下の地域を緑で薄く塗ります。
そして、同時間の地上低気圧を赤で、地上高気圧を青でチェックします。
又、前線の解析にも使えます。
等温線が混んでいる所や風が収束している所を見て、
温暖前線を赤線、寒冷前線を青線で記入しましょう。
詳しい前線の解析法はこちら。
500hPa 気温, 700hPa 湿数予想図
対流圏中層の大気の気温と湿数に注目しましょう。
まず、大雪の恐れがある-36℃以下の地域を緑で薄く塗ります。
又、暖気塊(W)を赤で、寒気塊(C)を青でチェックしてもいいでしょう。
更に、湿数(気温−露点温度)が3℃の線を青でなぞります。
そして、同時間の地上低気圧を赤で、地上高気圧を青でチェックします。
500hPa 高度・渦度解析図
500hPaのトラフ、リッジと渦度に注目しましょう。
まず、等高度線が南に垂れ下がっている部分(トラフ)に赤で太線を引き、
北に盛り上がっている部分(リッジ)に青で太ジグザグ線を引きます。
詳しいトラフ・リッジの解析法はこちら。
更に、正渦度領域を赤で、負渦度領域を青で薄く塗ります。(数値が小さいのは無視)
そして、同時間の地上低気圧を赤で、地上高気圧を青でチェックします。
これらを基に、地上の高・低気圧の状態が確認できます。
例えば、地上低気圧に対応するトラフや大きな正渦度があり、 それが風上側(西側)に傾いている場合は、この低気圧は活発で以後更に発達すると分かります。
縦線域(正渦度領域)を囲む外枠は渦度0線で、これを基にジェット気流や前線の解析ができます。 この渦度0線を緑でなぞりましょう。
各hPa 高層天気図
高度、温度、湿数(850hPa, 700hPaのみ)、風向・強さが示されています。
850hPa では前線の解析、700hPa では湿域の把握、500hPa では対流圏中層における大気の特徴の把握、
300hPa では対流圏上層における大気の流れの把握に用います。
等温線が混んでいる所や風が収束している所を見て、 温暖前線を赤線、寒冷前線を青線で記入しましょう。 詳しい前線の解析法はこちら。
850hPa, 700hPaでは、湿数(気温−露点温度)が3℃の線を青でなぞります。
又、500hPa, 700hPa では、等高度線が南に垂れ下がっている部分(トラフ)に赤で太線を引き、
北に盛り上がっている部分(リッジ)に青で太ジグザグ線を引きます。
詳しいトラフ・リッジの解析法はこちら。
冬季の場合は、寒気の強さや強風軸に注目しましょう。
300hPa では、ジェット気流の軸を緑で線を引き、
冬季における圏界面や上層寒冷低気圧を青でチェックします。
以上で色塗りは終了です。
ずらずらっと色塗りのポイントを並べましたが、これらを全部チェックする必要はありません。
ハッキリ言って、全部色塗りしていたら、問題を解く時間が無くなってしまいます。
大抵、各問題毎に使用する図表が指定してありますので、
必要な時に、必要な部分だけを色塗りするようにしましょう。
もちろん、図表を読むのに全く支障がないのなら、色塗りする必要はない訳で、
あなたにとって、一番時間が掛からなくていい方法を選んで下さい。
これら図表を基に、気象現象の時間変化、位置変化を把握します。
気象現象は3次元の構造を持っているので、これら各層の天気図を立体的に理解することが必要です。
構造を立体的に理解するには、天気図を重ね合わせてみることが大切です。
この作業の為、実技試験ではトレーシングペーパー(半透明の紙。これに書き込むと下の紙と重ねて見ることができる)が配布されます。
これは、気象現象の時間変化、位置変化をみるのに便利なので、有効に利用しましょう。
穴埋め問題 (残り時間:65分)
数としては、それぞれ約15〜20問(配点:15〜20点)といったところです。
だいたいが、天気の概況や解説文の穴埋め問題で、第1部と第2部共に必ず出題されます。
地上天気図等を見て、低気圧の位置や、ある地点の天気等を読み取り解答する、といった感じです。
以下に例題を示します。
【例題 1】(平成14年度第2回試験第1部 問1 類似問題) 難易度:★★☆☆☆
19日9時(00UTC)の地上天気図で、
東海道沖にある台風の実況と今後の予想を述べた次の文章の空欄(1)〜(10)に当てはまる語句または数値を、解答用紙に記入せよ。
なお、1NM(海里)≒1.85km、1KT(ノット)=1海里/時である。
↓ 答えは闇文字にしてあります。見る場合は、カーソルでその部分をドラッグして下さい。
強い台風第13号は、19日9時には八丈島の南西約120kmの北緯(1)32.3度、
東経(2)138.9度にあって、(3)東北東に毎時(4)20(22)kmの速度で進んでいる。
中心の気圧は(5)960hPa、中心付近の最大風速は(6)35m/sで、
中心から半径(7)110km以内では風速25m/s以上の暴風となっている。 台風は引き続き強い勢力を保ちながら進む見込みで、19日昼前には伊豆諸島南部(三宅島〜八丈島〜青ヶ島)のほぼ全域が(8)暴風域に入り、 19日昼過ぎから夕方には台風の中心は伊豆諸島南部にかなり接近する見込みである。 この為、伊豆諸島南部では、暴風、(9)大雨、(10)高波、高潮に厳重な警戒が必要である。 |
【解説】
地上天気図から得られたデータより作成された、東海道沖の台風に関する気象概況です。
ここでは、台風の情報とそれから予想される現象が書かれてあります。
(1)〜(7) 地上天気図に記されている台風の近くに、その台風の情報が英語で書かれています。
この台風の情報を訳すと以下の様になります。
台風第13号(20XX年)、呼称:ファンフォン(ラオス語:動物)、960hPa
北緯32.3度、東経138.9度、PSN良好
東北東へ12ノット(=約6m/s=約22km/h)
中心付近の最大風速70ノット(=風速約35m/s)
半径60海里(約110km)以内で、風速50ノット(=風速約25m/s)以上
南方向の半径170海里(約315km)以内、
その他の方向の半径160海里(約300km)以内で、風速30ノット(=風速約15m/s)以上
(8) 風速15m/s以上の領域を強風域、風速25m/s以上の領域を暴風域と言います。
(9),(10) 台風の接近で予想される、注意、警戒の必要な気象現象です。
文章記述問題のキーワードで用いられることが多いので覚えておきましょう。
【配点】
各問1点、計10点満点。
天気図から読み取る力と学科試験の知識(用語)が必要な問題と言えるでしょう。
配点は1問(1つの語句)につき1点で、実技試験の中でも難易度は一番低く、そう時間もかからないので、
決して取りこぼすことの無い様、手早く確実に正解しておく必要があります。
天気記号の見方
日本において天気記号は、日本式と国際式が使われています。
日本式天気記号
新聞などでよく見る天気図には、この日本式天気記号が使われています。
正式な表記法を下図に示します。
![]() |
日本式天気表記の例 天気: 晴 風向: 北北東 風速: 3(3.4〜5.5m/s)(7〜11kt) 気温: 24℃ 気圧: 1015.6 hPa |
天気記号は以下の通りです。
○ | 快晴 | 全雲量0〜1 | ![]() | 晴 | 全雲量2〜8 |
---|---|---|---|---|---|
◎ | 曇 | 全雲量9〜10 | ● | 雨 | 通常の降雨 |
●キ | 霧雨 | 霧状の雨 | ●ニ | 俄雨 | 一時的な降雨 |
![]() | 霙 | 融けかけた雪 | ![]() | 霰 | 直径1cm未満の雪の塊 |
![]() | 雹 | 直径1cm以上の氷の塊 | ●ツ | 雨強し | 強度の降雨 |
![]() | 雪 | 通常の降雪 | ![]() | 俄雪 | 一時的な降雪 |
![]() | 雷雨 | 雷を伴った降雨 | ![]() | 霧 | 霧による視程1km未満 |
![]() | 煙霧 | 煙による視程1km未満 | ![]() | 塵煙霧 | 塵による視程1km未満 |
![]() | 砂塵嵐 | 強風による塵の吹き上げで視程1km未満 | ![]() | 地吹雪 | 強風による雪の吹き上げで視程1km未満 |
国際式天気記号
全世界共通の天気記号です。
正式な表記法を下図に示します。
![]() |
国際式天気表記の例 現在の天気: 晴(雲消散)、過去の天気: 雷雨、降水量: 21mm 全雲量: 2〜3、下・中層雲量: 3(2〜3) 上層雲: 巻雲、中層雲: 高積雲、下層雲: 積雲 最低雲高: 7(1,500〜2,000m未満) 視程: 10km(※下記参照) 風向: 北北東、風速: 10KT(5.0m/s) 気温: 24℃、露点温度: 18℃ 気圧: 1015.6hPa 過去3時間の気圧変化量: +1.2hPa 過去3時間の気圧変化傾向: 上昇後、一定(または緩やかに上昇) |
※ 視程(陸上): 0は0.1q未満、0〜50は(数値÷10)q、56〜80は(数値‐50)qにて導出。(51〜55は使用しない)
※ 視程(海上): 90は0.05km未満、91は0.05km、92は0.2km、93は0.5km、94は1km、95は2km、96は4km、97は10km、98は20km、99は50km以遠。
天気記号は以下の通りです。
全雲量 | 雲形 | ||
---|---|---|---|
○ | 0 | ![]() | 巻雲 |
![]() | 1以下 | ![]() | 巻層雲 |
![]() | 2〜3 | ![]() | 巻積雲 |
![]() | 4 | ∠ | 高層雲 |
![]() | 5 | ![]() | 高積雲 |
![]() | 6 | ![]() | 層積雲 |
![]() | 7〜8 | ![]() | 乱層雲 |
![]() | 9〜10未満 | ![]() | 積雲 |
● | 10 | ![]() | 雄大積雲 |
![]() | 不明 | ![]() | 積乱雲 |
![]() | 観測機器なし | ![]() | 層・積雲断片 |
― | 層雲 |
現在・過去天気 | 風速 | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
![]() | 煙 | ![]() | 雲消散 | ![]() | 驟雨(弱) | ![]() | 風弱く |
∞ | 煙霧 | ![]() | 空模様不変 | ![]() | 驟雨(強) | ![]() | 5KT |
s | 塵煙霧 | ![]() | 雲発達 | ![]() | 霰 | ![]() | 10KT |
![]() | 砂塵嵐 | ![]() | 雷光 | ![]() | 50KT | ||
= | もや | ![]() | 雷雨 | 最低雲の底の地面からの高さ | |||
≡ | 霧 | ![]() | スコール | /: 不明、0: 50m未満、1: 50〜100m未満 | |||
![]() | 霧雨 | ・] | 雨あった | 2: 100〜200m未満、3: 200〜300m未満 | |||
・ | 雨(弱) | ‥ | 弱雨(連続) | 4: 300〜600m未満、5: 600〜1000m未満 | |||
![]() | 雪(弱) | ∴ | 雨(並) | 6: 1000〜1500m未満 | |||
![]() | 雹 | ![]() | 雨(強) | 7: 1500〜2000m未満 | |||
![]() | 雷電 | ![]() | 強雨(連続) | 8: 2000〜2500m未満 | |||
![]() | 地吹雪 | ![]() | 霙 | 9: 2500m以上、又は雲がない |
※ 雪に関する記号は、雨の記号と雪の記号を置き換えるだけの為、省略しています。
書き込み問題 (残り時間:55分)
必ず1問は出題されます。(配点:5〜20点)
低気圧の東進過程や前線の解析の問題が多く出題されているようです。
以下に例題を示します。
【例題 2】(平成15年度第1回試験第1部 問1 類似問題) 難易度:★★☆☆☆
500hPa 高層天気図におけるトラフの位置を実線で、リッジの位置を波線(ジグザグ線)で記入せよ。
【解説】
トラフとリッジは、いわゆる気圧の谷と気圧の尾根のことです。
トラフは気圧が谷状に低くなっている部分で、リッジは気圧が尾根状に高くなっている部分です。
これを地上天気図で見ると等圧線が、500hPa, 700hPa等の高層天気図で見ると等高度線が、
南に垂れ下がっている部分がトラフで、 北に盛り上がっている部分がリッジとなります。
出される問題としては、500hPa面の上層トラフ・リッジの解析が考えられます。
解析方法は、簡単に、トラフの場合は各等高線の南端、リッジの場合は各等高線の北端を線で結ぶだけです。
後は、風向きが東よりであることや、トラフの場合は後面に寒気移流、
リッジの場合は後面に暖気移流があることから、微調整を行います。
また、解析したトラフを基に、地上の低気圧の状態を見ることができます。
このトラフが地上低気圧より西にあり、等温度線が等高度線を跨いで南に垂れ下がっている(寒気移流がある)と、
その低気圧は発達すると言えます。
一方、トラフが地上低気圧と同位置、又は東にあり、等温度線が等高度線を跨いで南に垂れ下がっていないと、
その低気圧は成熟、又は衰弱すると言えます。
下(前線の解析法の項)にトラフ・リッジ解析図(低気圧の発達と上層パターン)を示します。
【配点】
トラフ(実線)、リッジ(波線)ともに3点、計6点満点。
図表に書き込む時に、試行錯誤して何かと時間がかかりますが、そんな必要はありません。
採点に関しての 6.にもあるように、
読み取り誤差等を考慮して、正解には適切な幅の許容範囲を設けている為、
あなたが読み取った通りに、解答を書き込めばいいのです。
そんなに難易度は高くないので、できるだけ手早く確実に正解しておきましょう。
前線の解析法
一般的に、暖気と寒気がぶつかる面を前線面といい、これが地表と接する線を前線と言います。
前線面や前線はある程度の厚みや幅がありますが、前線(面)は温度傾度が不連続で暖気に接する所の南辺とすることになっています。
前線を判別するには、空気密度を見ればいいのですが、これは直接測定できないので、
気温、露点温度、温位、相当温位等で代用します。
前線が存在する場所を見つけるポイントとして次のことが挙げられます。
- 気圧の谷の中に存在する。 → 低気圧の周辺を探しましょう。
- 風向きが急変する。(低気圧回転、収束) → 前線と風向きはほぼ直交しています。
- 気温差、露点差がある。 → その間に前線が存在します。
- 視程に差がある。 → その間に前線が存在します。
- 気圧変化傾向と変化量が異なる。 → 前線が移動している場合、前面で下降、後面で上昇します。
- 降水の状況や雲の分布が異なる。 → 変化する所に前線が存在します。
- 等温線、等温位線、等相当温位線が混みあっている。 → その南端付近が前線にあたります。
これを踏まえて、天気図を使って解析をしてみましょう。
まず、850hPa 風・相当温位予想図を使って、上記 2. や 7. から、おおよその前線の位置を解析します。
それから、850hPa 気温・風, 700hPa 上昇流予想図を使って、上記 2. や 3. や 7. や帯状の上昇流から、
500hPa 高度・渦度予想図を使って、渦度0線付近から微調整を行います。
最後に、地上気圧・降水量・風予想図も参考にし、最終的に決定した前線の位置を書き込みます。
いくつかの天気図を重ね合わせてみるので、トレーシングペーパーを使うと便利です。
もちろん、他の資料からでも前線解析ができますので、それらも参考にしましょう。
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前線解析図 点線:850hPaの等温線、実線:地上の等温線、 陰影:上層(500または300hPa)の前線 |
![]() |
トラフ・リッジ解析図 |
低気圧の東進過程
前項の前線解析とセットで出題されることがあります。
地上低気圧が存在する場所を見つけるポイントとして次のことが挙げられます。
- 気圧の谷の中で、気圧が一番低くなっている所。
- 水平方向で、風向きが低気圧回転で、収束している。
- 鉛直方向で、強い上昇気流がある。
- 湿域の中で、降水量が多い。
- 等温線、等温位線、等相当温位線が北に盛り上がっている所の先端。
これを踏まえて、天気図を使って解析をしてみましょう。
まず、地上気圧・降水量・風予想図から、だいたいの低気圧の位置を確認します。(L印付近)
ただ、これは精度の低いものなので、他の図も使って微調整をする必要があります。
500hPa 高度・渦度解析図では正渦度の最大値、
500hPa 気温, 700hPa 湿数予想図では上記 4. や 5. から、
850hPa 気温・風, 700hPa 上昇流解析図では上記 2. や 3. や 5. から、
850hPa 風・相当温位予想図では上記 2. や 5. から、最終的に地上低気圧の位置を決定します。
但し、上空へ行くほど通常渦管や上昇流は西に傾いている為、注意が必要です。
これら高層天気図は、あくまで微調整で利用しましょう。
いくつかの天気図を重ね合わせてみるので、トレーシングペーパーを使うと便利です。
ジェット気流の解析法
ジェット気流は200〜300hPa面付近に軸があり、
一般的に日本付近では、寒帯ジェットと亜熱帯ジェットの2つが見られます。
これらジェットからの分流が見られることもあり、解析されるジェット気流は2つとは限りません。
主に200、250、300hPa高層天気図や、雲解析情報図、雲画像から解析します。
200、250、300hPa高層天気図では、等風速線が描かれています。
この等風速線から、強風軸の位置を確認できます。
更に、等風速線と等温線の混んでいる場所から、ジェットの位置を判断することができます。
また、雲解析情報図や雲画像から、シーラスストリークやトランスバースライン、 暗域(上層の乾燥域)の存在をチェックします。
その他にも、500hPaの渦度0線や、水蒸気画像の暗域(北側)と明域(南側)の境目等からも解析することができます。
文章記述問題 (残り時間:35分)
実技試験の半分以上がこの問題です。(配点:60〜80点)
実技試験の中でも難易度は高く、重要な問題と思われます。
以下にいくつかの例題を示します。
なお、解答例に含まれるキーワードは太字で記しています。
【例題 3】(平成15年度第1回試験第2部 問3 類似問題) 難易度:★★★☆☆
500hPa 気温, 700hPa 湿数24時間, 36時間予想図と
850hPa 気温・風, 700hPa 上昇流24時間, 36時間予想図によれば、
5日の日中、宮城県仙台市で雪が降る可能性は小さいと考えられる。
その様に判断される根拠を70字程度で述べよ。
なお、必要に応じて地上の気温と湿度による雨雪判別図及びエマグラムを利用せよ。
また、下層は飽和していて、気温減率は湿潤断熱減率と同じであるとする。
↓ 答えは闇文字にしてあります。見る場合は、カーソルでその部分をドラッグして下さい。
850hPa予想図では仙台市の気温は約0℃以上であり、
これより下は湿潤断熱減率で気温が上昇すると地上では約8℃以上で、雪が降る気温ではない。(70字) |
【解説】
一般的に、日本上空の雲の中は氷点下で、氷晶(雪の卵)か雹か雪の状態です。
しかし、これらが落下して、気温が0度を超えてくると、融けて雨になります。(冷たい雨)
この問題の場合、850hPa 気温・風, 700hPa 上昇流24時間予想図(5日9時)より、
850hPaで仙台市付近の気温は約0℃であることが確認されます。
同36時間予想図(5日21時)では、約3℃以上であることが確認されます。
問題では『日中雪が降る可能性』となっている為、約0℃以上であるとします。
ここから更に落下する場合、下層は飽和している為、気温は湿潤断熱減率で上昇します。
地上の気温を知るために、ここでエマグラムを使います。
まず、気圧850hPaと気温0℃の線の交点をプロットし、そこから湿潤断熱線(破線)と平行な線を引きます。
その線と1000hPa(問題の図表からは地上の気圧が分からない為、これを地上気圧とする)の交点の気温は約8℃であるため、地上の気温と湿度による雨雪判別図より、
雪が降る気温ではないと言えます。
【配点】
850hPa面での気温、湿潤断熱減率で気温を上昇させること、地上の気温ともに2点、計6点満点。
【例題 4】(平成15年度第2回試験第1部 問1 類似問題) 難易度:★★★★☆
500hPa天気図では、サハリンの東と日本海中部に低気圧が解析されている。
しかし、地上天気図及び700hPa,850hPa天気図では、
サハリンの東には低気圧が解析されているが、日本海中部には低気圧が解析されていない。
各等圧面での気温を参照し、日本海中部で下層に低気圧が見られなくなる理由を90字程度で記述せよ。
↓ 答えは闇文字にしてあります。見る場合は、カーソルでその部分をドラッグして下さい。
500hPaでは日本海中部とサハリンの東の高度はほぼ等しいが、
それより下層では日本海中部の方が気温が低く大気密度が大きいので等圧面間の層厚は小さく、
下層ほど低気圧が見られなくなる。(90字) |
【解説】
上層の寒冷渦(寒冷低気圧)に関する問題です。
この低気圧の中心付近は周囲より温度が低いのですが、更に気圧も低いのは、寒冷低気圧の上方の対流圏界面が凹んで、
その上の下部成層圏の温度が周囲より高いからです。
さて、この問題での解答のポイントとしては、中層(500hPa)と下層(700hPa,850hPa,地上)の違いを明示し、 それより、如何なる理由で低気圧が解析されていないのか、ということにあります。
まず等高度線で見ると、500hPaでは日本海中部とサハリンの東の低気圧の高度はほぼ等しいですが、
700hPa〜850hPa〜地上ではサハリンの東の方が高度(気圧)が低く、等高度(圧)線が閉じています。
つまり、サハリンの東の方は下層〜中層までの背の高い低気圧となっており、日本海中部の方は、中層のみの低気圧であることが分かります。
次に、各等圧面での気温を見ると、下層〜中層まで一貫して日本海中部の方が気温が低くなっていますが、
下層に行くほど気温の差が大きくなっていることが分かります。
天気図から分かることはこれだけなので、次に低気圧が解析されていない理由を考察します。
理由として考えられるポイントとしては、日本海中部の方が下層に行くほど気温がより低くなっているということです。
気温が低いと、空気の密度は大きくなり、体積が小さくなります。
つまり、下層ほど日本海中部の方が大気密度が大きく、等圧面間の層厚が小さくなっていると言えます。
これは高気圧の性質であり、よって下層ほど低気圧は見られなくなります。
【配点】
500hPa面での高度差、500hPa以下の下層での気温差ともに2点、
気温が低いと大気密度が大きく等圧面間の層厚が小さいことは4点、計8点満点。
【例題 5】(平成14年度第2回試験第1部 問4 類似問題) 難易度:★★☆☆☆
右下に示す図Aと図Bの矢羽と白抜き矢印の向きに注目し、それぞれの領域における波浪のうち、
卓越する波浪を何と呼ぶか(波浪の種類)を答え、その成因をそれぞれ20字程度で記述せよ。
なお、それぞれの領域の近海には台風が近づいているものとする。
↓ 答えは闇文字にしてあります。見る場合は、カーソルでその部分をドラッグして下さい。
図A: うねり 成因: 台風周辺で発生した波浪が伝播した。(17字) |
図B: 風浪 成因: その領域で吹く風により生じた。(15字) |
【解説】
波浪図に関する問題です。
矢羽は風力・風向、白抜き矢印は卓越波向、数字は卓越周期(秒)を表します。
滅多に出題されないとは思いますが、用語や図の読み取り方等をチェックしておきましょう。
出題頻度が低いこともあり、難易度は低いと見ていいでしょう。
まず用語を答えさせて、その意味を問う形式の問題です。
その用語を理解していれば、難無く解くことができます。
図Aは風向と波向が逆の向きなので、その場の風とは別の力により波が生じていると考えられます。
この波浪は台風に起因するものであり、この問題の場合、成因とあるので、台風と絡ませた解答が必要となるので注意しましょう。
図Bは風向と波向が同じ向きなので、その場の風によって波が生じていると考えられます。
【配点】
波浪の種類は各2点、成因は各3点、計10点満点。
採点に関しての 4.や 5.にもあるように、
この問題では、キーワードの有無が重要です。
よって、まずはキーワードを挙げましょう。
文章記述問題には字数制限がありますが、だいたい20文字でキーワードが1つと考えて下さい。
文章を作るにあたって、キーワードを羅列しただけではもちろんダメで、
キーワードを理論的に正しく使う必要があります。
字数制限に関しては、同じ位がベストですが、だいたい8〜12割までならいいでしょう。
多過ぎたり少な過ぎたりすると、余計な事を書いていたり、
必要な事が書かれていなかったりしている可能性があるので、見直しが必要です。
要するに、設問で求められたことだけを答えます。
余計な事を書いていても採点の対象にはなりませんが、理論的に間違っている場合は、減点の対象になることがあります。
また、設問で指示された図や資料に基づいて答えましょう。
指示されていない図を用いたり、逆に指示された図を用いない解答は、減点の対象になることがありますので注意しましょう。
エマグラムの解析法
エマグラムとは、ある地点の上空を熱力学的に見た状態図のことです。
主にある地点の鉛直方向の大気安定度をみる為に用いられます。
横軸には気温が、縦軸には高度の代わりに気圧の自然対数がとってあります。
そして、右下がりのほぼ直線の実線が乾燥断熱線群で、
これよりやや傾きの大きい一点鎖線が湿潤断熱線群で、
更に傾きの大きい点線が等飽和混合比線群です。
乾燥断熱線群には温位(θ)が、湿潤断熱線群には湿球温位(θw)が10K毎に、 等飽和混合比線群が g/kg 単位で混合比の値が記されています。(下図参照)
図の右上の正方形は、このエマグラム上の閉じた線が囲む面積が表すエネルギー(J/kg)の大きさを表し、 この正方形の面積が400 J/kg に相当します。
ある地点のある高度で空気塊の気圧と温度が測定されたら、
その値をエマグラムにプロットしましょう。(点 1 )
この空気塊を断熱的に上昇させた時の温度変化は、点 1 を通る乾燥断熱線を上に辿れば分かります。
逆に、下に辿って、1000hPa線と交わった点が温位(点 θ)です。
混合比が分かっている場合は、乾燥断熱線を上に辿って、その混合比と同値の等飽和混合比線と交わった点(点 2 )が、
空気塊が飽和する持ち上げ凝結高度です。
これがほぼ雲底の高度に相当します。
これより更に上昇させた時の温度変化は、点 2 を通る湿潤断熱線を上に辿れば分かります。
逆に、下に辿って、1000hPa線と交わった点が湿球温位(点 θw)です。
湿潤断熱線を上に辿って、0(ゼロ)の等飽和混合比線との交点で、空気塊は乾燥しきることになります。(点 3 )
そこから、乾燥断熱線を下に辿って1000hPa線と交わった点が相当温位(点 θe)です。
また、露点温度が分かっている場合は、その点を通る等飽和混合比線の値が混合比となるので、この値を使用します。
露点温度(点 Td)から等飽和混合比線を上に辿って、
点 1 を通る乾燥断熱線と交わった点が点 2 となります。(右下図参照)
この様に、エマグラムを用いていろいろな熱力学の量を計算することができます。
重要な資料の1つなので、試験の出題頻度は高いと思われます。
エマグラムから、その地点の上空の状態を理解できるようにしておきましょう。
![]() |
エマグラムフォーマット |
![]() |
エマグラム解析図 |
大気安定指数の計算法
大気が鉛直方向で力学的に安定かどうかは、気象現象の発生・発達にとって重要な要因の1つです。
大気の安定度は、安定、中立、不安定と定義されます。
ある空気塊が鉛直方向に運動した際、元の位置に戻るか、変動しないか、
転倒が起こり安定になるまで運動が継続するか、ということを意味します。
これは、運動した空気塊がもつ温度(密度)が、周囲の大気がもつ温度(密度)に比べて、 低いか、同じか、高いかで判断することができます。
現在、簡単に鉛直安定性を見積もる指標として、ショワルターの安定指数(SSI)があります。
ショワルターの安定指数(SSI)は、850hPaの空気塊を500hPa面に断熱的に(外部との熱のやり取りがない状態で)持ち上げると仮定し、
持ち上げられた空気塊の温度 Tc を周囲の大気の気温 Te から差し引いた (Te-Tc) の値を、1℃単位の数値で示したものです。
この値がマイナス(負)であると、持ち上げられた空気塊は浮力を得て更に上昇することから、 鉛直に(静力学的に)不安定な大気と言えます。
持ち上げられる空気塊の温度を求めるには、850hPaの空気塊が未飽和の場合は乾燥断熱的に(途中で飽和した場合は、その先は湿潤断熱的に)、 飽和の場合は湿潤断熱的に持ち上げると想定して、その温度変化を求めます。
ショワルターの安定指数(SSI)がマイナス(負)で、雷雨発生に要注意となっていますが、
数値予報の結果を用いる場合は、誤差を考慮して、SSI < 3でも一応注意とするとなっています。
試験の出題頻度は低いと思われますが、前項のエマグラムとセットでの出題が考えられます。
試験終了 (残り時間:0分)
さあ、残り時間も少なくなってきました。
問題は全部解けたでしょうか?
未だの人は、できるだけ答えを書き込む努力をしましょう。
キーワードの羅列ではダメなようなので、確実に正解できそうな問題にターゲットを絞って、 しっかり解答することをオススメします。
解答が済んでいる人は、採点に関しての注意事項を思い出しながら、 さらっと全体を見直しておきましょう。
そうそう…、受験番号と氏名が正確に書かれているかも確認しておいて下さいね。
そして、試験官の合図で実技試験が終わりました。
皆さんお疲れ様でした。
合格に自信のある人もない人も、きちんと問題を持ち帰って、
約10日後に財団法人 気象業務支援センターのホームページで公表される模範解答と照らし合わせて下さいね。
ちなみに、このページの例題は全部で40点満点です。
28点以上なら合格、と言いたいところですが、部分点がかなり甘いと思うので32点以上は欲しいところです。
不合格っぽい人は次回に向けて、合格っぽい人は将来に向けて、 どこがいけなかったのか等、きちんと見直し、反省しておきましょう。